蛙化現象を歌った曲、たかやん『蛙化現象』の歌詞と解釈
ずっと好きで片思いだったひとと両思いになった瞬間、相手のことを気持ち悪いと感じ、嫌いになる「蛙化現象(かえるかげんしょう)」。
この蛙化現象のひとの心に沁みる音楽作品を紹介しています。
今回紹介するのは、YouTuberのたかやんさんの文字通りのタイトルの曲『蛙化現象』です。
タイトルだけでなく、歌詞もストレートに「蛙化現象」の心情が歌われています。以下は歌詞の前半部分です(歌詞全文は公式YouTubeに掲載)。
あの頃あなたは王子のようだった
「伝わるといいな」って私の思いが、
ずっとアプローチしてたのになんでだ?
振り向いた途端怖くなってる。自己中に行く貴方の方へ
キュンとした数々の思い出
気付いた時もうあなたの声さえ拒絶する
ごめんね、身勝手デートとか色々したかったのに
両想いがゴールって気持ち悪い。
勘違い女みたいじゃん
もう嫌 孤独で Lonelyあんなに好きだった
もちろんセックスもしたかった
愛も注ぎたかった
なんでもしてあげたかった
同棲を想像してた
会話も想像してた
付き合って できちゃった婚でいいくらい
結婚できると思ってた。
のめり込んでストーカーするくらい
貴方に溺れてた近づかないでよマジでキモい
もう貴方のことは好きじゃない
分かってるよ私は超ウザい
ダサい私自身殺したい
この曲は、たかやんさんの三枚目のアルバム『切れ痔じゃない人とは友達になれないってのは嘘の嘘。』に収録。Apple MusicやSpotifyなど各種サブスクでも配信しています。
解釈
このたかやんさんの『蛙化現象』という曲は、蛙化現象の教科書のような歌です。実際、この曲のYouTubeのコメント欄にも、数多くの蛙化現象で悩んでいるひとの声が届いています。
彼女たちの声を見ると、好きになって付き合ったら飽きてすぐ別の男性に乗り換える、いわゆる「魔性の女」とは違うことが分かりますし、この曲の歌詞を読んでも、魔性の女として恋愛を謳歌しているようには思えません。
たとえば、歌詞の冒頭で“「伝わるといいな」って私の思いが、ずっとアプローチしてたのになんでだ? 振り向いた途端怖くなってる。”とあります。
この「飽きる」ではなく、「怖くなる」という表現に、蛙化現象の一つの特徴が現れています。
「伝わるといいな」って私の思いが、
ずっとアプローチしてたのになんでだ?
振り向いた途端怖くなってる。
そしてその後の、“あんなに好きだった”からの怒涛のごとく続く「あなたとの様々な理想の世界」。この夢が現実になった瞬間、怖くなる、キモくなる、拒絶反応が出る。
それでは、一体何が怖いのでしょうか。何がキモいのでしょうか。
歌詞は、“わかってるよ私は超ウザい、ダサい私自身殺したい”と続きます。
もし恋愛を謳歌していたら、結論が自分自身をウザい、殺したい、とはなりません。自分自身でもコントロールできない葛藤が伝わってきます。
振り向いた途端に「怖い」「キモい」というのには、複数の想いが込められています。
たとえば「怖い」と思う対象は、恋愛そのもの、あるいは人間そのものなのではないでしょうか。
もっと言うと「生々しさ」と言ってもいいかもしれません。
片思いのあいだは優しい理想の世界に浸っていることができます。それは完ぺきな世界で、神様に近い。
しかし、彼が振り向き、両思いになった瞬間、そこには生々しさが宿り、神様ではなくなります。
その不完全な世界を、「怖い」と感じる。「キモい」というのも、半分は、その「不完全さ」に関わってきているのでしょう。
向けられた視線のひとつひとつが、遠くを見ているうちは美しかったのに、自分に向いた瞬間、気持ち悪いと思う。
見つめられながら、「きれいだ」とか「好きだ」と言われると身震いがする。それは生々しい人間を痛感させられるからです。
そして、もう一つ、自分自身の自己評価の低さも関連してくるのでしょう。
自分のことをキモいと思っているからこそ、自分のことを好きになる相手の評価も一体となって下がる。自分のことが嫌いで嫌いで仕方がないからこそ、一心同体になったとき、一緒に嫌いになる。
これが「蛙化現象」です。
さらに苦しいのは、歌詞を見てもわかるように、蛙化現象の自分自身を許せない、ということです。こうして恋をするたびに自尊心、自己評価はいっそう低下します。
デートとか色々したかったのに
両想いがゴールって気持ち悪い。
勘違い女みたいじゃん
もう嫌 孤独で Lonely
この歌は、決してハッピーエンドではありません。でも、孤独は、誰かの孤独の叫びによって、(もしかしたら一瞬かもしれませんが)消失します。
声や音楽の攻撃的な調子といい、矢継ぎ早に繰り出されるリリックと言い、蛙化現象の「どうにもならなさ」が的確に代弁されているのではないでしょうか。
以上、たかやんの『蛙化現象』の感想と解釈でした。